こんにちは。ココです。
注意欠陥多動性障害(ADHD)で自閉症スペクトラムな息子の行動と会話から何かのヒントを綴っていく当ブログへようこそ。
「注意資源」という言葉をご存知ですか?
今回はこの「注意資源」を日中使い果たすことで、学校側に「この子はADHDだから病院へ」と言われた男の子のお話です。
「ADHDだから病院へ」と言われた
D君は野球の好きな男の子。小学生の頃は野球チームに入って活躍し、勉強も平均的な成績の子でした。
特に目立った素行もなく、友達とも仲良くやっていた彼の成績が落ちてきたのは、中学2年生になった頃。
授業中ボーっとしていて、先生に当てられても気付かない。課題提出を毎回忘れる。「XXを資料室から持ってきて」と言われても、数分後には「言われたこと自体を」忘れている。放課後に大切なテストがあったのに、忘れて帰宅してしまう…。
ADHD(注意欠陥多動性障害)には「注意力の欠如」(集中力がない)、「多動」(じっとしていることができない)、「衝動的」(物事の後先を考えられない、キレやすい)の3つの大きな症状が見られます。
その子によって「注意力の欠如」だけ症状が顕著な子もいれば、息子のように3つの症状全てを持ち合わせている子もいます。
先生はD君の学校内での様子を見てスクールカウンセラーに相談したところ、「ADHDの注意欠陥の症状なのではないか。病院で検査をした方がいいと思う」と言われて、D君の親御さんに同じことを伝えたそうです。
ADHDではないのに?
小学校まではごく普通の子に見えたD君。親御さんは同級生で支援クラスにいたADHDの子と比べても、そんな風には見えない…と思いながらも、病院の予約を取りました。
結果は「注意欠陥多動性障害とは言えない」との診断でした。
やっぱり…と安堵したものの、学校での注意力のなさに「もしかしてこの子はグレーゾーンなのかも…」と思い始めた親御さん。
そんな「どっちなんだろう…?」という相談でした。
原因はスマホだった
D君に「どうして忘れっぽくなったか、原因みたいなもの、思いつかない?」という会話から少しずつ掘り下げていくと。彼が誕生日に初めて買ってもらったスマホに毎日夢中になっている様子が伺えました。
D君はスマホでの動画視聴やSNSに、1日何十回も触れていました。
本人は1回に使用する時間はほんの5分程度だから、それほど「夢中になっているわけではない」という認識がありました。
ですが登校中、休み時間、放課後、帰宅してから、お風呂で、勉強の合間に、寝る前に、と常にスマホ画面をチェックし、何かコメントが入っていないか、ということがいつも頭の中にあったようです。(本人は「そんな四六時中じゃない!」と始めは否定していましたが…。)
発達障害は社会性スキルや知能検査、小児科医からの身体的な問題がないか、などの話等、様々な観点からその子を観察して判断されます。
特に発達障害児の知能検査結果は、能力にでこぼこが見て取れます。
定型発達児はどの項目も数値にあまり差がないのに対し、発達障害がある場合は、「Aの項目は平均値より抜きん出て高いのに、Bの項目は平均値にさえ届かない。Cの項目も平均値より下だけど、Dの項目はかなりの数値に達している」という「能力のでこぼこ」が見られるのです。
D君にはその「でこぼこ」が全く見られませんでした。
ADHDの「注意欠陥」と「注意資源の使い過ぎた状態」の違い
注意資源は別名「認知資源」とも言われます。
発達障害者の「注意欠陥」は、膨大な情報の中から「必要な情報」を「無意識に選択する」機能が上手く働かない「機能不全」のかたちです。認知症の方にもこの注意障害が見られます。
それとは逆に、定型発達者は溢れんばかりの情報の中から「今、必要な情報」を無意識に取捨選択することができます。
例を挙げてみましょう。
理科の授業中、先生が何点かの注意事項を説明し、その後「理科準備室」から各々必要な物を持参して「校庭へ集まって待機するように」と話しました。
定型発達者は、「注意事項はビーカーを割らないように」「他のクラスも授業中だから静かに移動するように」「外は暑いので水筒を持って行っても可」という話を全て記憶できます。簡単な注意事項ですから、メモを取らずとも分かります。
そして「理科準備室」に行き、自分が担当するもの(ビーカーやピンセットなど)を取り出し、校庭へと急ぎます。
それに対して注意障害のある発達障害児は、まず「廊下を静かに歩く」ことを忘れてバタバタと慌てて走り出します。水筒はもちろん忘れています。
そして「理科準備室に行くこと自体を忘れて」そのまま校庭へと向かうのです。
注意しなければならない項目、持っていくもの、行く場所…。多くの項目があると、注意障害のある子は覚えられません。「その子個人に向かって」「ひとつずつ」「多いのなら紙に箇条書きで」伝えてくれると、多くの場合できるようになります。
発達障害児は先生が話している間、聞こえてくる窓の外の鳥の声やクラスの子達の会話、鳴り響くチャイムの音や体育館から聞こえるバスケットボールの音の中から、「先生の声だけを」「一定時間」選択して聞くことが難しい。
「ビーカーを割らないように」「静かに移動する」「水筒を持つ」という3つの中で、最初の「ビーカーを割らないように」くらいしか記憶に残らない。
そしてそれ以降の流れはもう「音として聞いてはいたけど『やらなければならない重要な情報だ』と脳が認識して記憶することができない」(注意の欠如)のです。
このように無数の情報が常時散乱している中から、必要な情報を取り出して記憶することに困難があるのがADHDの「注意欠陥」の症状です。
D君の場合はADHDではなく、「スマホによって多大な時間の注意力が奪われ過ぎた結果」、それ以外のことに注意力が欠けていた状態だったのです。
まとめ
注意資源は電池のようなもの、と考えてもらうと分かりやすいです。
その人の「一日に使える注意力の総量」には限りがあります。これは一般的な方も同様です。
注意資源は、何かに注意を向けるたびにどんどん消費されていくので、スマホに注意を向けた時間が長ければ長いほど、その他のことへ回す注意力が減ってしまうのです。
D君はそのせいで学校での注意力が散漫になって、「ADHDの『注意欠陥』に似た」状態になっていたんだね!寝不足の状態でマルチタスクをこなしている時と同じ感じだねえ。
この件でD君は自らスマホを解約し、来年の受験が終わるまで我慢する、と宣言したそうです。
スマホの時間を帰宅部から「美術部」へ変更して、今はアイドルの似顔絵を先輩たちと練習しています。「結構楽しいみたい」とお母さんがおっしゃっていました。
次回は、この「注意資源が減らない」工夫の例をお話したいと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。