ほの暗い部屋の一角に小さなランプが灯る場所。
ここは悩める人間のお話を長くてかわいいお耳で聞いてあげる、うさぎちゃん先生の「人間ほんわか診療所」。
さあ、今夜もお客さんがひとりやってきましたよ。
うさぎちゃん先生~。僕もう寝るんだけどさ、寝る前にちょっとお話聞いてよ。
息子くん、こんばんは。今日はどうしたの?
今日もさー、学校で「落ち着きなさ過ぎる!」「喋り過ぎ!」って何度も怒られたんだ。
~し過ぎる、XXし過ぎ!ってさ。
なぬ?!それはいかん!「ADHDとは何たるものか」をとくと学校の人間どもに講義せねば!
確かに息子くんは宿題中も立ったまま書いたり、やったら喋りまくったり、癇癪起こしたり暴れたり泣いたり叫んだり…
うさぎちゃん先生…。ここは「ほんわか」診療所じゃないの…?
あ、そうだった。
うんうん、息子くんのどーしても「やり過ぎちゃう」ことが学校の人間にとっては超迷惑!なわけね。
でもさ、息子くん。「~し過ぎ」っていうのは、息子くんだけじゃなくて実はみんなやってるんだよ。
みんな「し過ぎ」てなんかいないよ!だって先生から怒られないじゃないか!
よく考えてごらんよ。夜寝るのが「遅すぎて」あくびばっかりしてる子、いない?
授業中ノートを「書くことばっかりし過ぎて」結局理解はしていない子、息子くんに「注意ばっかりし過ぎていて」優越感に浸っている子、黙って「みんなに合わせることばっかりし過ぎて」いて自分の意思が見えない子。
先生だって「怒り過ぎ」だし、ママは胃が悪いのに「コーヒー飲み過ぎ」、パパは「仕事し過ぎ」。
あーそうか…。うん、何となく分かる。
僕ほど悪目立ちしないけど、みんな何かを「し過ぎて」いること、結構あるんだね。
買い物し過ぎる。余計な事言いすぎる。説教し過ぎる、冷凍食品を使い過ぎる、運動しなさ過ぎる、ゲームし過ぎる、やたら癒しを求め過ぎる…。
何かが一定以上「過ぎてしまう」のは、実はその行為自体に問題があるわけじゃないんだよ。
それを「過ぎるほど」やるようになってしまった「本当の原因」っていうのがあって、そこが未解決のままくすぶっているから、あちこちに余波ができて毎日「過ぎて」しまう行動を繰り返しているんだ。
本当の原因?
ゲームを「し過ぎる」のは、学校や仕事で鬱積した気持ちを発散させようとするから。子供に「怒り過ぎる」のは、子どもをこんな風にしたい!というコントロールの気持ちがあるから。
ブランド品の過ぎた買い物は自分の劣等感を払拭したいという気持ち。過ぎたSNSの呟きは自分を理解して!尊敬して!羨ましがって!同情して!という誰かに認められたい過剰な気持ち。
その「過ぎた」行動をすることで解決はできないのに何とか解決したい!と思いながら、おんなじ「過ぎたこと」を今日も人間は繰り返すんだよ。
じゃあ僕の多動や多弁は何が原因なの?
君はADHDだから!
…分かってるよ。じゃあこの話、おしまいじゃん。
まあ息子くんの場合はADHDに起因するものが多いんだけど、その根本には息子くんなりの「理由」があるでしょ?
例えば学習中にずっと座っていられないのはADHDによる「集中力のなさ」が原因ではあるけど、君はその飛んじゃった集中力を自分の力で引き戻すように、敢えて立ってプリントを書いたり立ち歩いたりすることで自分に刺激を与えて勉強にまた意識を戻そうとしている。
息子くんの行動は「その他大勢」には「~し過ぎ」なことでしかないけど、息子くんにとっては「集中力なさ過ぎ」なことに対する自分なりの対応なんだよ。
発達障害児は何かにつけ「~し過ぎ」で責められたりウザがられたりするけれど、それにはもっと深い理由があって、その他大勢の思考しか持たない人たちにはそれが理解できないだけ。
自分たちだって「~し過ぎ」なこと、いっぱいあるんだけどねー。
そっか。なんかよく分かんないけど、僕の「~し過ぎ」は僕なりの「(心が)健全な」学校生活を送っていく方法でもあったんだね。
うんうん。だから怒られ「過ぎて」も「(気持ちは)スルーする力」を持てたらいいよね。すごく難しいかもしれないけどさ。
うん、ありがとう。大人になるまでに「スルーする力」GETできるように頑張るよ!
…ところでうさぎちゃん先生にも「過ぎる」ことってあるの?
それはもちろん「可愛い過ぎ」!!
…おやすみー…。
うさぎちゃん先生の人間ほんわか診療所。今宵は終了です。
長いお耳をお手入れしながら、うさぎちゃん先生は息子くんからもらった「おやすみおやつ」の人参を嬉しそうにポリポリするのでした。
本日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。