ほの暗い部屋の一角に小さなランプが灯る場所。
ここは悩める人間のお話を長くてかわいいお耳で聞いてあげる、うさぎちゃん先生の「人間ほんわか診療所」。
お月さまに帰ったうさぎちゃん先生ですが、満月の夜は月から光の橋がかかって、今まで通りこの診療所に来られるようになりました。
さあ、今夜もお客さんがひとりやってきましたよ。
うさぎちゃん先生~。私最近ね、息子くんの育て方で悩んでいるんだー。本当にこのやり方でいいのかなー…って。
やり方?家庭学習のさせ方とか、癇癪起こした時の対応の仕方とか?
うん、そう。本読んだり、専門家のアドバイスを受けたり、自分でやり方を変えてみたり…。色々努力はしているんだけど、時々「これって本当に息子くんのためになってるのかな?もっと違う方法だったらずっとラクにできるんじゃないかな?あれこれ考えてやるのは私の自己満足だけになってるんじゃないのかな?」なんて考えて…なんか自分のやり方に自信なくしちゃうの。
人間なんてそんなもんでしょ?「やり方」にいちいち疑問を持つなんて面倒臭い生き物だよねー。
うさぎちゃんは「このペレット、片足で食べたら美味しく感じるのかな?それともお耳でべしべし叩いてから食べる方がまろやかな味に??」なんて考えないもん。
ははは…。そうだよね。うん、考えたってこの先「それで正解だったか」どうかなんてわからないんだから、考えるだけ無駄って言えば無駄なんだけど。
そんなことないよ。「それで正解だったか」は確かに分からないけど、自問自答して、たくさん悩んで、息子くんとガチで取っ組み合いして。毎日毎時間正面切って息子くんと向かい合った。「忙しいから」「イライラするから」って無視せずにね。
問題は「やり方」じゃないよね。「そのたびに向かい合う」ってこと。そっちの方が遥かに大事だと思うよ。
そっか…。そうだね。「やり方」って「技術のひとつ」だもんね。
技術って世の中に古来から言われている「ごく些細なこと」とか、胡散臭い金儲けビジネスの「これで発達障害児も普通学級に!」なんてものまで、嫌になるほど溢れているもんね。
発達障害児をサポートする「技術」ばかり追い求めてた。そうじゃなくて「ひとつひとつ、息子くんと真剣に向き合う」って気持ちと態度。そっちの方がずっと労力がいるけど、一番大切なことなんだよね…。
そうそう。人間は安易に「テクニック」を得ようとしてあれこれ本やネットを調べることに時間を費やしているけど、大事なのは「今」「真剣に」向き合うこと。テクニックは心に余裕が出来た時に…程度にメモしておくだけでいいと思うよ。
そうそう、こんな言葉があるよ。
そこに辿り着こうとあせってはいけない。
「そこ」など、どこにもないのだから。
本当にあるのは「ここ」だけ。
今という時にとどまれ。
体験をいくつしめ。
一瞬一瞬の不思議に集中せよ。
それは美しい風景の中を旅するようなもの。
日没ばかり求めていては
夜明けを見逃す。
ネイティブアメリカンの言葉
『ネイティブ・アメリカン 聖なる言葉』
著:ロバート・ブラックウルフ ジョーンズ、ジーナ ジョーンズ
訳:加藤諦三 大和書房
そうだね。他の人ができないレアな「体験」をいつくしまなきゃね。「やり方」に悩むことも、大切な「体験」になるんだね。
うさぎちゃん先生、ありがとう。
うんうん。生きている「今」、体験している「今」を大切にしてね。
うさぎちゃん先生の人間ほんわか診療所。今宵は終了です。
ママにドライマンゴーのお土産をもらって、うさぎちゃん先生は光の橋を渡り、お月さまに帰っていきました。
また満月に遊びに来てね、うさぎちゃん先生…。
本日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。